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第38回 「赤の女王効果」という進化

「鏡の国のアリス(『不思議の国のアリス』の続編と言われます)」のなかで、アリスは赤の女王とともに花を見るために丘に向かって走ります。そのスピードは尋常ではありませんが、なかなか丘までたどり着くことができません。息も絶え絶えになったアリスが、どうしてこんなに早く走るのかと赤の女王に尋ねます。

すると、赤の女王はこう答えます。
「ここではね、同じ場所にとどまるだけで、もう必死で走らなきゃいけないんだよ。そしてどこかよそに行くつもりなら、せめてその倍の速さで走らないとね!」

この話にならって、進化論では進化競争を「赤の女王効果」と呼んでいます。
たとえば、キツネとその餌であるウサギの関係も進化競争の一つといえます。キツネはウサギを効率よく捕まえるために、高性能の耳やダッシュ力に磨きをかけます。すると、ウサギも同様に高性能で大きな耳やジャンプ力を発達させます。そうならないウサギはキツネに食べられて子孫を残せないため、ウサギ全体の遺伝子は、より大きな耳による早期警戒システムと逃走用のジャンプ力を強化する方向へ進むことになります。

こうしてキツネとウサギの能力が互いに進化すると、両者の優劣はほとんど変わらなくなります。そして、キツネのダッシュ力とウサギのジャンプ力は時間とともに高度化していきます。

古生物学者のS.J.グールドは、進化の考え方を野球界に応用して説明しています。
「1世紀前のメジャーリーグでは、4割打者や1割打者が珍しくなかった。しかし、ピッチャーとバッター双方の進化競争の結果、技術水準は比べものにならないほど高くなった。その結果、選手間の能力のバラツキは縮小し、現在では打率は3割5分から2割5分の間に収まるようになった」

競争による進化は全体のレベルを押し上げますが、その反面、突出した能力の持ち主が現れにくくなるのかもしれません。