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第54回 ある親子と奇妙なロバの旅

「ドイツ炉辺ばなし集」に、こんな話があります。

男の親子が、ロバを連れて家へ帰る道を歩いていました。最初は父親がロバに乗り、息子がその横を歩いていました。すると、向こうからやって来た旅人が父親を見て、あきれたように言いました。
「親父さん、あなたは大人なのに自分だけ楽をして、子どもを歩かせるのですか。子どものほうを乗せてあげるべきでしょう」
父親はもっともだと思い、すぐにロバから降りて、今度は息子を乗せました。ところが、しばらく行くと別の旅人が首を振って言いました。
「坊や、自分がロバに乗ってお父さんを歩かせるなんて、感心しないね。若い君が歩くべきです」

息子は慌てて降りました。そこで親子は相談し、今度は二人でロバに乗ることにしました。しかし、また別の旅人がそれを見て怒ったように言いました。
「なんてひどいことをするのです。そんな一頭のロバに二人も乗るなんて、かわいそうではありませんか」
親子はまた降りて、今度は二人とも歩き始めました。すると四人目の旅人が笑いながら、「ロバがいるのに誰も乗らないとは、ずいぶん妙な親子ですね」と言いました。

父親はすっかり困ってしまいました。誰かの言う通りにすると、必ずまた別の誰かに非難されます。考え込んだ末、父親は「それならいっそ、私たちがロバを担いで帰ろう」と言い出し、道端の丈夫な丸太にロバの足を縛りつけ、親子で担いで帰ることにしました。

皆んなの意見を採り入れようとすれば、こんなことにもなりかねません。
意思決定というのは、白か黒かがはっきりわかるケースは基本的にはありません。ほとんどが灰色の問題です。どんな決断を下しても、メリットとデメリットが両方生まれるものです。デメリットがない決断などなく、どちらを選んでも、必ずどこかから批判やお叱りを受けます。
それでも選んで決断していくことが、上にいる人間に課せられていることなのです。