第58回 スキルの錯覚(投資家たちの自信は本物か?)
株式市場では、毎日多くの株が売買されています。買い手は「今は安く、これから上がる」と考え、売り手は「高く、これから下がる」と考えます。つまり、同じ株価を見ていながら、双方が「自分の判断のほうが正しい」と信じているのです。
投資家は、自分が売る株よりも、これから買う株のほうが値上がりすると考えます。そこには、「自分には銘柄を見極める力がある」という自信があります。しかし、その自信は本当に実力なのでしょうか。
この点を確かめるために、カリフォルニア大学バークレー校の金融工学教授テリー・オディーンは、ある証券会社の個人客1万人について、7年分、およそ16万3千件の取引記録を調べました。そして、投資家が売った株と、その代わりに買った株の値動きを、売買時点から1年間追跡しました。
結果は、投資家の自信を打ち砕くものでした。平均すると、投資家が売った株のほうが、その後に買った株よりも値上がりしていたのです。その差は、年平均で3.2ポイントでした。つまり、多くの投資家は「よい判断をした」と思って売買していたにもかかわらず、実際には何もしないで持ち続けていたほうが得だったのです。しかも、売買をしなければ手数料もかかりません。
オディーンらのその後の調査でも、同じ傾向が示されました。最も活発に取引する投資家ほど損をし、取引回数の少ない投資家ほど成績がよかったのです。これは、頻繁な売買が「スキルの証明」ではなく、「自信過剰の表れ」であることを示しています。
さらに、男性と女性の投資実績を比べた調査では、男性のほうが自分の判断を過信しやすく、取引回数も多くなりがちで、その結果、女性の投資実績を下回ることが示されました。ここでも問題なのは知識の有無ではなく、「自分には分かる」という思い込みです。
ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ダニエル・カーネマンも、富裕層向けに資産運用の助言を行うアドバイザー28組について、運用成績とスキルの関係を調べました。その結果、得られた相関係数は0.01でした。これは、ほとんどゼロに等しい数字です。つまり、専門家の成績でさえ、実力によって安定的に説明できるとは言いにくかったのです。
