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第55回 イノベーションと既得権の破壊(ローマ帝国における事例)

かつてローマ帝国は、農業や工業、建築などの分野で様々なテクノロジーを活用し、いくつものイノベーションを生みました。例えば、セメントを使った石造建築、ポンプ、水車など。しかしそれ以降、テクノロジーの進化は停滞してしまいました。何故でしょうか。

その原因の背景となるものとして、次のような話が伝えられています。

一つは、ティベリウス帝の時代(14~37年)のことです。
ある男が割れないガラスを発明し、多額の報酬を期待して皇帝のもとを訪れました。男が自分の発明について説明すると、ティベリウスは「それを他人に話したか?」と尋ねました。
男が「いいえ」と答えると、ティベリウスは男を殺してしまったのです。
なぜティベリウスは男を殺し、イノベーションを破壊してしまったのでしょうか。それは、その発明が経済的均衡を乱すこと、つまり大きな変化を恐れたためだったのです。

もう一つの事例は、ウェスパシアヌス帝(69年~79年)のもとにやってきたある男の話です。
当時、神殿などの大きな建物を建造する際に使われる柱は大きく、重く、運ぶのは実に大変で、柱が製作される鉱山からローマへの運搬には数千人が関わっていました。
政府が支出する費用も巨額でした。そこでその男は、ローマの要塞であるカピトル神殿に比較的少ない費用で柱を運ぶ装置を発明しました。
もし、その装置を採用すれば、柱の運搬は極めて効率的になり、帝国の財政負担も少なくなります。ところが、ウェスパシアヌスは男を殺すことはなかったものの、そのイノベーションの採用を拒絶したのです。
何故か。多くの運搬従事者の職を奪うことになるからなのです。ウェスパシアヌスはこう言いました。
「私にどうやって失業する民衆を養えというのだ?」
ウェスパシアヌスは、自分が人々を満足させ、支配しなければ、自分の身が不安定になるのではないかと懸念したのです。
こうしたことが続いて、ローマの人びとはイノベーションを興すことを放擲するようになったのでしょう。

企業の中にも、イノベーション(改革)に消極的なリーダーがいます。失敗すれば、自分のキャリアにキズがつくことを恐れているのかもしれません。しかしイノベーションは人々の生活を便利に快適にし、企業の飛躍的な発展に貢献する可能性があります。
自己保身からイノベーションに取り組むことを避けているリーダーに、未来を任せることができるでしょうか。