読むサプリ第66回 悲観主義者と楽観主義者の奇妙な計算
今から360年ほど前に、紀州(今の和歌山県)のある丘が削られて坂道ができました。特に変ったところもない坂道ですが、いつの間にか「この坂の途中で転ぶと、3年目に死ぬ」と言われるようになりました。
その坂はやがて、「三年坂」と名前がつけられ、江戸時代にまで語り継がれるようになり、多くの人たちが、その言い伝えを固く信じていました。
それから時は流れ、江戸時代の末期のことです。
材木屋の隠居の久左衛門が、この坂で転んでしまいました。
久左衛門は、真っ青な顔をして家に着くやいなや、「ああ、わしはあと3年しか生きられぬ」といって、布団をかぶって寝てしまいました。家の人たちが「それは迷信ですよ」と言っても耳を貸そうともしません。
「ああ、あと3年、あと3年」。
そんなところに、幼なじみの弥蔵がやってきました。弥蔵はガックリしている久左衛門を見て、こう言いました。
「ものには、ついでというものがある。何なら、もう10回か20回転んだらどうだ」
この言葉には、久左衛門も怒りました。
「お前さんは、何と友達がいのない奴なんだ!」
ところが弥蔵は、
「いいか、よく聞けよ、久左衛門。あの坂でいっぺんこけたら3年目に死ぬ。だったら、2度こけたら6年目、3度こけたら9年目に死ぬ。つまり、よけいにコケるほど寿命が延びていく。だから、あと20ぺんコケたら、今60のお前さんなら120歳まで生きる計算になる」
「そうか、さすが幼なじみの弥蔵、いいことを言う!」と、久左衛門の顔はみるみる明るくなり、何事もなかったように寝床から起き上がりました。
そして「よっしゃ、あと20ぺんほどコケてくるで」と言って出かけていきました。
